更新日:2022.03.16

麻痺の回復と代償は違う

脳出血、脳梗塞などの後遺症として片麻痺を示す方は多くおられます。

この記事では、運動麻痺の回復と、見かけの回復=代償について解説しています。

誰しも回復を希望されますが、途中で本来の回復と違う代償を覚えると後の軌道修正が大変になります。

その他の「脳卒中のリハビリについてのまとめ」はこちらをご覧ください。

機能を取り戻すためにリハビリに取り組むわけですが、”歩けない患者さんに平行棒につかまって歩く練習、できる様になったら杖で歩く”という話を良く見聞きします。

麻痺していない側につかまっているわけですから、麻痺している脚に体重をかけないで歩くことを練習していることになります。

本来の運動麻痺の回復には麻痺した体を使うことが重要ですが、この練習ではほとんど使っていません。

その延長で杖を使って麻痺していない側に体重をかけて”歩くことができれば、歩けたということになりますが、あくまで行動のはなしです。

麻痺した足が回復して歩けたということとは違います。

代償と回復

代償と回復はどちらも機能獲得に関わる言葉ですが、意味が全く異なります。

代償

できなくなった行動・活動・機能を肩代わりすることを代償(Compensation)といいます。

先述の例の様に麻痺した側に体重をかけないで杖に体を預けて歩くことや、そもそも歩かずに車いすを使って移動することなどがこれに該当します。

歩けない間トイレに車いすで行くことなどは代償活動ですが、必要に応じて考えなければなりません。

全く代償を許さないとなると、生活がままならないということになってしまいます。

それは、麻痺した体が動けるようになるまで

回復

元あった機能を取り戻すことを回復(Recovery)といいます。

一度壊れた中枢神経細胞は再生しません。

サルの実験では、手をつかさどっていた脳に脳梗塞をつくり、トレーニングすると手の動きが回復することが知られています。

Nudoらは、回復した後に脳の機能を調べると今まで腕や肘、肩などをつかさどっていた脳の領域が手を司るように変化していることを証明しました。

これを機能代行(Vicariation)といいます。つまり機能回復のためには脳の中で機能代行が起こる必要があります。

機能回復のためのリハビリ

お話したように、機能回復を目指すのであれば麻痺した手足を使わなければなりません。

突然動き出して使えるようになるわけではありませんので、使う内容は段階付けて行う必要があります。

杖・装具など必要なものはありますが、これを使い続けていると機能回復は起こりません。

理由は言うまでもありませんが、杖を使うということは反対側の脚に体重をかけないことを意味し、装具を使うということは膝や足の動きを制限するからです。

とはいえ、全く使わない方が良いかといえばそうではありません。

必要な時に必要な補助具を用いて機能回復のための練習をすることが重要です。

効率よく学習が進むためには難しすぎず、優しすぎず7割程度の成功率の課題設定が良いとされています。

すべてをうまく行おうとしてもできないので、一部補助としてこれらの補助具を利用することは賛成です。

まとめ

”歩けないから、歩く練習”これでは機能回復にはつながりません。なぜできないのか、動きや感覚など本来動くために必要な要素を練習する必要があります。

神経科学の進歩によって脳内の機能代行と機能回復の関連がわかってきました。

最新の科学にあったリハビリの進め方が効率よい機能回復につながると考えています。

また、代償動作が定着すると以下の点で問題が起こります。

代償する習慣から脱却できない

本来の回復が起こっても常に代償の習慣が身についていると回復した機能を使う機会が少なくなります。そのため過度な代償は回復を妨げると考えられます。

長期的に代償ばかりではうまくいかない

片麻痺(脳卒中による半身まひ)の方が、良い側に杖を持ちそちらで体重を支えて歩けるようになりましたが、数年後、よい側の膝、肩を痛め動けなくなるという話はよく聞く話です。一側に負担がかかりすぎるのも長期経過の中では負荷がかかりすぎ故障をきたす原因になるのです。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している