筋肉の収縮と緊張の理解
臨床家の皆さま、緊張(トーン・トーヌス)はどの様に理解されていますか?
トーンは様々な事象の結果として起こる
筋の収縮を調整しているものは大きく分けて以下の3つがありると思います。
- 筋の組成によるもの
- 筋と脊髄によって作り出される筋活動(脊髄-末梢の影響)
- 上位中枢からの影響
順に一つずつ見ていきましょう。
筋の組成(状態)による影響
筋の生理学的状態
まずは、筋の収縮を作り出す生理学的な背景を考えます。
筋が収縮するに必要となるカルシウムイオン(Ca+)などの電解質の状態はどうでしょうか?
栄養状態や電解質異常では筋は運動ニューロンからの興奮性のインパルスを受けたとしても収縮することができません。
あるいは弱い筋活動しか起こせません。
筋小胞体は筋原線維と平行に存在し、弛緩した筋では筋小胞体の中にカルシウムイオンを含み、カルシウムイオンの放出によって筋を収縮させています。
つまり筋小胞体に含まれるカルシウムイオンが少ない状態では十分な筋活動は起こせないわけです。
筋の生態力学的状態
筋の短縮は生理学的な側面から見るとアクチン・ミオシンの滑走が起こらない状態です。
ミオシンの頭部が不動になった状態を指すので、「筋の長さが短くなっている=短縮」ではありません。
筋が延ばされた状況でこの現象が起これば、筋長(muscle length, 筋の長さ)が長いまま短縮という状況になります。
一方緊張が高く、筋長が変化しない状況は短縮とは言わず、この2つの状況に対するアプロ―とは異なります。
脊髄ー末梢の影響
筋には運動の効果器として筋線維(錘外筋線維)の存在に注目が集まりますが、感覚器としての役割を担う、筋紡錘、腱紡錘が存在します。
筋紡錘は筋線維と並列につまり錘外筋線維の中にある長さ1mmほどの受容器で筋の長さ(length)に応答します。
また、腱紡錘は筋線維と直列に配列された器官でこちらは筋の張力(tension)に応答します。
筋紡錘
ここでは、混乱を避けるため錘内筋線維に影響するɤ運動ニューロンのことは割愛して説明します。
筋紡錘は筋の伸張に対して応答し、Ⅰa求心性繊維を通じ脊髄へこの情報を伝えます。
そして、α運動ニューロンを通して筋収縮を調整します。
この調整は興奮性のα運動ニューロンによって、収縮したり収縮を弱めたりしています。
腱紡錘
腱紡錘は網の目状の組成結合組織の中にある神経終末から腱にかかる張力を検出しⅠb求心性繊維を介して脊髄に情報を伝達します。
腱紡錘からの情報は脊髄の抑制性介在ニューロンを介して、α運動ニューロンの働きを減弱さることが知られています。
筋に負荷がかかった状態、例えば下肢が支持しているときの下肢伸筋などでは、このⅠb求心性繊維はむしろ伸筋群へのα運動ニューロンの活動を促通することが知られています。
上位中枢からの影響
脊髄に到達する下降路は様々あります。
代表的なものは以下のようなものがあります。
- 皮質脊髄路
- 網様体脊髄路
- 前庭脊髄路
- 視蓋脊髄路
- 赤核脊髄路
各経路を記載いすると膨大になるため割愛しますが、随意運動を司る皮質脊髄路も単独で働くわけではあありません。他の経路と組み合わせで姿勢制御を伴って目的とする動作に必要な筋活動を起こしています。
随意運動による緊張の変化、バランスや姿勢の変化のような姿勢制御の一部として起こる緊張の変化、外部環境からの感覚情報や内的欲求などにより筋の緊張は絶えず変化しています。
その他の影響
内臓痛や、皮膚反射など様々な状況変化により緊張は変化しています。
結論として、筋の緊張を変化させうる因子は、
- Muscle Propaty(筋の状態)
- Biomechanical(生態力学的状態)
- Peripheral Input(末梢入力による影響)
- Descending Control(上位中枢からの下降性制御)
などに分類されると思います。
リハビリテーションにおいて対象者が示す緊張の変化の要因を合理的に解釈し、動作に必要な最適な筋活動を準備することが大切だと考えます。