質と量の回復について中枢神経疾患患者の動きを考える
私が学生の頃1990年頃は、「神経疾患による障害からの回復は、量だけでなく、質の回復が重要だ」と教わりました。
その後臨床で患者さんをみていると、量をこなせない理由は運動のパターンや運動効率などの”質”がよくないのでは?と思ってみていた時期があります。
私は急性期医療に携わっていたので、量の確保や改善にまで注意が向いていなかったのかもしれません。
そんな反省点から、動きの質と量双方からクライアントの機能の評価をするようになりました。
この失敗談からの経験をこの記事にまとめてお示しします。
”質”と”量”を考える
そんな反省を踏まえて運動の”質”と”量”について考えてみました。
中枢神経疾患による質の低下とはなんでしょう?
Seanによると、中枢神経システムにおける運動ニューロンを意味する上位運動ニューロン(Upper Motor Neuron)損傷により2つの側面から障害が起こるとしています。
2つの側面は、筋は弱化(Weakness)と異常な筋収縮(Abnormal muscle contraction)を意味しています。
弱化は、神経ー筋活動の減弱によりおこります。
筋の弛緩(Flaccidity)や低緊張(Hypotonia)がこれに当たると思います。
脊髄全角のα、ɤ運動ニューロンが筋に収縮指令を伝えますが、その運動ニューロンの活動を作り出す上位運動ニューロンの活動の問題ですので、随意的な筋活動だけでなく、姿勢制御に関わる筋活動の収縮指令においても弱化が起こってくるわけです。
単純に筋トレでは改善しないということになります。
この弱化は筋の活動を減らすので筋の長さは変化しない状態になります。
”筋肉の緊張の理解”という記事で書きましたが、筋は不動の状態が続くとアクチン・ミオシン接合部が動かなくなりますので、結果として筋の短縮が起こります。
また、筋は筋長が短い(起始と停止が近づいた)状態にあると筋節(サルコメア)が減り、筋の長さも短くなります。
筋線維の変化も起こります。
特に上位運動ニューロン損傷では赤筋繊維が白筋線維に置き換わることが示唆されています。
これは筋活動において瞬間的に強い筋出力を発揮し持久性が乏しくなることを意味しています。
異常な筋収縮は痙縮や連合反応などとして臨床でよく目にすることがあります。
静的には痙縮やジストニアなどがみられます。
活動に伴ってみられる動的なものとしては連合反応やクローヌスなどが見られます。
これらの要因には様々な仮説がありますが、確立された学説はないようです。
伸張反射亢進の原因として、田中は図に示すように7つの要素を挙げています。
運動の質を改善するためにはこれらの関与や、その他特殊感覚器(視覚・前庭覚)からの影響も考えたリハビリテーションの展開が必要と思います。
では、運動の”量”はどの様に考えたらよいでしょうか?
末梢では筋活動を繰り返すことで筋肥大が起こることや筋組織の柔軟性改善(短縮の改善)などが起こります。
中枢神経に目を向けると運動の学習がなされます。運動を繰り返すことは学習に重要なこととなりますので、繰り返しが必要です。
良い動き方だけでなく、効率の悪い動き方(質の良くない運動)も学習します。
どのように”質”と”量”を担保するか?
セラピストとしてどのように質と量を患者さんに改善させるよう取り組んだらよいかを考えてみます。
効率の良くない運動を覚えてもらうのは困りますので、運動の質を改善することが急務です。
質が改善するまで運動量を負荷しないというのは、筋萎縮や短縮を助長するだけでなく、心肺機能の低下をもたらします。
なので早急な運動の質の改善を行い、習得された運動は行ってもらえるように進めていくのが良いかと思っています。
セルフマネージメントにもつながる発想かと思います。