感覚・知覚・認知 一連の流れと役割を解説

感覚・知覚・認知という言葉は中枢神経疾患のリハビリでよく聞く言葉ですが、それぞれの定義や役割を明確に理解している方は少ないかと思います。

この記事ではそれぞれの定義だけでなく役割と、臨床での解釈について説明し、リハビリのアイデアにつながることを目的にまとめています。

感覚・知覚・認知とは

じつは、これらの言葉は論文中でもしばしば用いられているのですが明確な定義がなく、それぞれの著者がそれぞれの立場から表現しています。とはいえ、ある程度の曖昧さを持ちつつも共通の認識として理解されている点も多くあります。そのためこの言葉を使うときはかなり慎重に意味を考えておく必要があります。どのような見解から感覚・知覚・認知と表現するのかが重要です。

例えば、視床出血による感覚障害ですが、厳密には知覚の障害ですし、歯磨き粉のCMに出てくる知覚過敏は歯茎の脆弱性により感覚器官がむき出しになったと表現されているので感覚過敏です。その理由については以下の通りです。

感覚

感覚情報の知覚メカニズム 清水豊 1987より 五感の構造と情報伝達経路の模式図

感覚受容器が適応刺激となる刺激に応じて刺激を感受する過程です。網膜の錐体細胞は光、特に色の感受性に優れ、皮膚は光を感じません。それぞれの受容器に適応刺激となる刺激があります。

感覚情報(sensoryinformation)とは、特定の身体部位に存在する受容器細胞が刺激されることによって生じる神経活動である

カンデル神経科学 第5版 Eric. R. Kandel

これらの感覚は旧来五感と呼ばれていた視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚に加え、固有感覚や温痛覚、内臓感覚、前庭覚などが知られています。

つまり感覚の障害とは、適応刺激の受容器及びそれによって生じる神経活動と考えられ、末梢の感覚受容器から末梢神経を伝達され、中枢神経に入力されるまでと考えられます。

末梢神経障害や受容器の損傷などがこれらの障害と考えられるため、糖尿病性ニューロパチーや筋の短縮によって筋紡錘からの求心性情報が減少した状況がこれに該当すると考えられます。

知覚

感受した感覚情報を取捨選択し統合する過程を知覚過程とするならば、解剖学的に脊髄もしくは脳幹に末梢神経が接続した後の情報伝達プロセスを知覚と考えることができます。末梢からの感覚情報は大脳皮質からの下行性制御により入力をコントロールされているため、末梢神経から注す神経に情報が伝達される時点で情報の処理が行われているためです。

知覚(ちかく、英語: perception)とは、動物が外界からの刺激を感覚として自覚し、刺激の種類を意味づけすることである。

知覚 2021年3月13日 (土) 16:36 『ウィキペディア日本語版』

知覚過程と認知過程は似ている言葉ですが認知過程は過去の経験基づいて行動の計画を立案する過程という表現が多く見られます。少なくとも一次感覚野(体性感覚:3-1-2野や視覚野:17野など)よりも後の処理過程と考えられます。

例えば、網膜に映るものがリンゴであるという認識は赤いという色、丸いという形を知覚したうえで過去の経験によってトマトではなく、りんごだという記憶と照らしあわされて認知されているわけです。

視床出血の患者さんが、触っているのはわかるけれどどこなのかはっきりせず(局在性 localization)に、刺激の強さがはっきりしない(intension 強さ)がはっきりわからないということは知覚がうまくできていないということになるでしょう。そのため、指先の二点識別が粗大になり、結果として力加減が困難になりぎこちない動きを作り出してしまいます。

認知

知覚した情報を行動に変換するためにその情報の価値判断をするプロセスと考えられます。このプロセスには価値判断が含まれ辺縁系や海馬など過去の経験などが導入されていると考えられます。

目の前にある棒の恥に毛の生えたものを見たときに、歯ブラシだという判断が起これば口の中へ、ヘアブラシだという判断がなされれば頭へもっていき使うことになりますが、両者の違いはなんでしょうか? 一つは大きさでしょう。歯ブラシほどのブラシで髪をとかすことはありませんが、高次脳機能障害の一種である失認の見られる患者さんでは歯ブラシを頭にもっていったり、歯ブラシでご飯をすくおうとすることがあります。

臨床的解釈

これらに問題を示す患者においてどのようにリハビリや機能回復を促していくのかというのはとても興味深いところがあります。経験上いくつかの手がかりがあると考えています。

知覚の項でも触れましたが、入力される感覚情報は中枢神経からの能動的制御によって選択されています。つまりその情報に注意が向くことが感覚の入力をしやすくする可能性があるといえます。針仕事などの繊細な作業をするときに”指先に神経を集中して”と表現しますが、集中することで指先の感覚情報の感受性は実際に高まると考えることができます。

また、このようなケースを経験しました。脊髄損傷による両下肢の感覚脱失の方が、介助下で立位になった時に踵がわかると表現されたことがあります。その後立ち上がりや移乗動作の際にご本人は踵がわかるので安心感が少し得られるようになりました。もちろん床上でのテストでの感覚検査では表在覚、深部覚ともに脱失のままでした。この状況をどのように考えたらよいのか悩ましいところですが、下肢からの感覚情報が健常な体幹筋、平衡感覚、視覚などの情報と複合的に身体像(内部表彰 身体図式)を作り出しているのかもしれませんが定かではありません。

まとめ

いずれにしても感覚情報は外から勝手に入ってくるだけでなく、自身の能動的働き賭けによって変化しうると言えるところが興味深いといえます。

時にセラピーは感覚情報のとりこみと身体図式の再構築過程と表現されることもあります。

参考文献・書籍

  • 感覚情報の知覚メカニズム 清水豊 1987
  • カンデル神経科学 第5版 金澤一郎、宮下保司 (監修)、Eric R. Kandel (編集)
  • Bobath Concept: Theory and Clinical Practice in Neurological Rehabilitation, Sue Raine, Linzi Meadows, Mary Lynch-Ellerington, 2009