脳卒中後片麻痺者の歩行獲得へ向けたリハビリの取り組みをご紹介
脳卒中(脳梗塞・脳出血)のあと多くの患者さんは歩くこと、食べることを希望します。
字を書く、車を運転するなどと比べ圧倒的に多いニーズです。
私たちリハビリに従事するものは、患者さんの希望に合わせた目標を掲げリハビリのプランを作成し実行しています。
これだけ科学が進化したのに、決まったやり方・方法が確立されていないのには理由があります。
ヒトの動きには多様性があり、動き方は十人十色ということです。
これまで私が20年にわたり多くの方の歩行を実現する手助けをしてきた中で見られた共通点と解決のための手掛かりをここに記しておきます。
脳卒中のリハビリについては下の記事にまとめています。
人には歩くための仕組みがある
ここでは神経の機能など難しい話は省きますが、健康な成人は生まれて1年程度の間様々な動作を経験して歩くようになります。
その過程に、歩くための手掛かりが多く含まれています。
例えば生後3か月程度で首が座ります。首が安定し胴体と首の関係性が習得されます。そして半年過ぎるころには支えられて座るようになり、胴体(体幹)の支えが強化されます。時に転びそうになって手でバランスを取ることを覚えます。
こういったことを経てやがてつかまって立ちあがり、伝い歩きをするわけです。
この過程で培った動き方の再獲得をなくして歩けるようにはならないのです。
脳卒中の方によく見られる例を挙げると、
- 例えば片麻痺の方が良い側の手でしっかりと手すりを握っていたら、反対のマヒしている脚は支えなくなる。
- 頭が傾いていると目に映るものがまっすぐでなく、耳の三半規管も傾いているので垂直が認識しずらい。
こんな条件だと健常な人でもまっすぐ歩くことはままならないのです。
ただ、手を離せ!、頭をまっすぐにしろ!と言ってなおることではありません。
この様な一つ一つの状況を確認してリハビリの計画を立てる必要があります。
必要な条件
歩くために必要なことがいくつかありますので順に書いておきます。
バランスを保つ
頭をあげる、体を起こせるなど自身で体を保持できる必要があります。このためには胴体・首の筋肉が支える必要があります。しかし筋力をつけるという発想よりもうまく支えるコツをつかむといった方が良いでしょう。
支えられる
両足で支えられる能力は必須です。もちろん左右片側ずつどちらも支えられるのが良いのですが、まずは両足でも良いので支えられる能力が必要です。
この2条件をクリアしないとつかまってでも歩くことは困難だと思います。
どう解決するか?
上の条件を解決するために取り組むべき基本的方向性について書いておきます。
具体的なことや、詳細にどうするべきかは個人差があります。担当の理学療法士、作業療法士の方にお尋ねください。ここではあくまで基本的なことを記しておきます。
体をまっすぐに保つ
寝ているとき、座っているときに体が傾いている方を多く見かけます。頭の傾きは目から入ってくる情報や三半規管からの傾きの情報をまっすぐにとらえることができず垂直の認識をゆがませます。長期間頭が傾いていた方を急に真直ぐにすると倒れたと錯覚するくらいです。
体の傾きも左右の体へかかる体重が偏るだけでなく、筋肉の長さがたるんだり、引き伸ばされたりします。体の感覚は主に皮膚と筋肉、関節などから受け取っているため体がゆがんでいると体のまっすぐがわかりにくくなるのです。
そのため、寝ているとき座っているときなどに体をまっすぐに保つようにしましょう。とはいえ、横向きに寝ることも必要ですので、横になった時は頭・体がねじれないように枕やバスタオルをいれるなど工夫する(ポジショニングといいます)と良いでしょう。
支える
立って歩くためには体を重力に対抗して支えなければなりません。その練習として少しずつベッドを起こす、車いすに座って体を支えるなどの練習が必要です。
ベッドを少し起こして頭・体が支えられるように準備していきましょう。ベッドが直角近くまで起こしても体が保てるならば、車いすなどで体を起こすことを練習していくと良いです。
2つの練習はどちらも重要ですので、一つずつ行うのでなく、同時進行すると良いです。「ベッドを起こし、体をまっすぐに保つ」、「車いすに乗って頭を上げておく」など同時に進めましょう。
まとめ
歩くことを目標にリハビリに取り組む方が多くいらっしゃいます。歩けるようになるための手順を飛ばして立つ・歩くことはできません。歩くために必要な要素を一つずつ取り組んでいくことが何よりの近道になると思います。
セラピストの方向けに歩行の必要条件などは以下の記事にまとめてあります。
(一般の方には少し難しい言葉などがあるかと思います。)