ボバースコンセプトとエビデンス
ボバースコンセプトはエビデンスがない
私の調べた限りでは2020年5月現在ボバースコンセプトについてのエビデンスは残念ながらありません。
エビデンスというのは根拠のことで、近年の医学はエビデンスベースで成り立っています。リハビリもエビデンスに基づいた手法が好まれています。
しかしボバースによるリハビリが優れているという根拠はありません。
最新のシステマティックレビューでは、”歩行、バランス、ADLなどほかの手法と比べて効果的であるとは言えない”という結論です。
The Bobath concept is not superior to other approaches for regaining mobility, motor control of the lower limb and gait, balance and activities of daily living of patients after stroke.
María J. Díaz-Arribas et al. Effectiveness of the Bobath concept in the treatment of stroke: a systematic review, 2019, Diability and Rehabilitation
なお、IBITAのWebサイトにはボバースコンセプトの臨床研究についての文献リストがあります。
エビデンスのあるリハビリ
理学療法ガイドライン(脳卒中)2015から、Minds, 2007に基づいたエビデンスの推奨グレードとエビデンスレベルを以下に列挙します。
姿勢と歩行に関する理学療法
- 早期歩行練習 推奨グレードA エビデンスレベル2
- 回復期の姿勢・歩行練習 推奨グレードA エビデンス連ベル2
- 装具療法 推奨グレードA エビデンスレベル2
電気刺激療法および他の物理療法
- 推奨グレードB エビデンスレベル2
持続的筋伸張運動
- 推奨グレードB エビデンスレベル2
運動障害に対する理学療法
- バイオフィードバック療法 推奨グレードA エビデンスレベル1
- 促通反復療法 推奨グレードB エビデンスレベル2
- CI療法 推奨グレードB エビデンスレベル2
- トレッドミル歩行練習 推奨グレードB エビデンスレベル2
- ボバースアプローチ 記載なし
- その他のアプローチ 記載なし
半側視空間無視・注意障害・遂行機能障害に対する理学療法
- 推奨グレードB エビデンスレベル5
肩関節障害に対する理学療法
- 推奨グレードB エビデンスレベル2
体力低下に対する理学療法
- 推奨グレードA エビデンスレベル4
在宅理学療法
- 推奨グレードB エビデンスレベル2
この中でボバースアプローチ(原文の用語のまま表記しています)については、以下になります。
- 発症早期の患者を対象群(スリングを用いたリハビリ)と比較し巧緻性、ADLに向上が見られた(Kwakkel G et al. 1999)。
- H波とM波が治療後ほぼ近似値を示し、Ashworth scale、足関節の可動域で改善を認めた。 α運動神経のH反射への抑制的効果がみられた (Ansari NN, Naghdi S 2007)。
- 重度運動障害や半盲、半側注意障害を伴う急性期患者に感覚運動刺激を行うと運動障害を改善し注意力を向上させる(Feys HM et al. 1998)
- ボバースアプローチと課題試行的アプローチでQOL満足度、うつ、肩の痛みについて特別な効果はなかった(Hafsteinsdottir TB et al. 2007)
一部効果を認めるものもありますが、はっきりしません。
やっぱりエビデンスがないのか!?
ではボバースはやっぱり根拠のない経験則に基づいた考えなのか?という疑問があるかと思います。
ボバースコンセプトの講習会などを振り返ってみると、ボバースコンセプトは方法論ではありませんので、以下の様に構成されています。
知 識 : 神経学、発達学、運動学などの知見からヒトの行動を考える
実 技 : 効率的な動作に近づけるためにどのように誘導(ハンドリング)するか
臨床実践 : 臨床症状と行動の解釈を推論しながら自らの知識・技術で解決する方法を探る
ということは、神経科学や運動学の基礎的な知識の上に成り立っているといえます。
一流のスポーツ選手が行っている動きはどの様にみにつくかというとエビデンスがあって鍛えぬいた人が一流になるというわけではありませんよね?
どうやったらより”やりやすくなるか”を追求した結果、洗練された動きを習得するわけです。
柔軟に対応することが必要
色々エビデンスがないとの批判を浴びているボバースですが、様々な方向からエビデンスを出そうとしています。
ただ、方法論得ないため他の関連因子の影響を取り除けなかったりと色々難しさがあります。
前述の理学療法ガイドラインですべての脳卒中患者・利用者を網羅できているわけではないので注意が必要です。エビデンスのあることしかしないというセラピストはいないと思いますが。
以前、意識障害の患者に対するリハ医からの指示がROM訓練でした。エビデンスがあるから、ROMをやっておくようにとの指示です。当然、これだけでは機能改善に至りませんので他の方法も併用してリハビリを進めることになりました。
現場の患者・利用者に合わせたセラピストの対応が重要です。
症状の分析・理解、運動行動の理解、その背景にある解剖学、生理学、神経学などが大切です。それを応用できる創造性のあるセラピストが患者、その家族からニーズが高かったりします。
いずれにしてもエビデンスのあることしか行わないと想像性、柔軟性のない型通りのことしかできないことになります。とはいえ、エビデンスのある確立された方法や考え、テクニックには素晴らしい点も多くこれを知らないのは専門家として片手落ちです。
最後に重要なこと
エビデンスを作っている人はエビデンスにのっとっていないのです。エビデンスのあることだけを行っていたら新しい方法にはたどり着きません。創造性・応用力など様々なアイディアをフル活用していかに良い方法を作り出すかが重要です。悩んで考えるその姿勢が大事だったりします。
実際にどのように考えて取り組んでいるのかは「歩行のメカニズム」という別記事でまとていますのでご覧ください。