パーキンソン病患者の体の傾きに対するリハビリの一例
パーキンソン病患者の体の傾きが起こることはかつてより知られており腰曲がり、ピサ症候群などがその代表となっている。
腰曲がり(Camptcormia):立位、歩行時にみられる胸腰椎の前屈で、背臥位では消失するジストニアの一つと考えられる(Eldad Melamed, 2005)
ピサ症候群:緊張性の体幹ジストニアとされ、神経遮断薬の摂取後に誘発されることがある(F Yokochi, 2006)
骨格構造や関節拘縮などの問題ではないことが示唆されているが、パーキンソン病にみられるPisa 症候群やCamptocormiaの原因は解明されていない。
上の写真は40分のリハビリ前後の座位姿勢の変化。
リハビリ中の思考
以下に当患者の座位姿勢の傾きに対するリハビリを行う思考過程を”ビューポイント”と”思考・実行過程”に分けて記す。
※ あくまでも当患者における思考過程であり参考としてご覧ください。
頭部の傾きはない
前庭・視覚による平衡の認知、修正が行えていると考える。
体幹の傾きに対する応答
体が右に傾くことに対し、四肢の外転が見られない。つまり、脚(股関節)を広げる、右手を側方について支えるなどが見られず、体幹の傾きに対する認識が乏しいと思える。
歩行可能な患者であり、上記動作の運動出力(手足を広げる動作)に大きな障害はないと考える。
体性感覚の評価
左下の側臥位(股・膝屈曲位)で、右臀部から頭側への圧刺激(触圧感覚)への応答を見る。
側臥位の姿勢は上側になっている右体幹が背臥位方向へ後方回旋してる。抗重力活動が乏しいことが原因なのか?
右臀部への繰り返す圧刺激に対して、骨盤が側方傾斜する方向(頭尾方向)への動きはみられてくるが、惹起される筋活動が乏しく、弱々しい。
そこで脊柱のゆがみや傾きを認識するといわれる固有背筋群に対して筋の長さを伸ばすことによる感覚入力を促してみる。
脊柱のalignmentを修正する筋活動が起こるはずだが起こらない。あったとしてもalignmentが変化するほど活動せず、触って分かるほどの筋活動も起こらない。
ということで、さらに固有背筋群を刺激し続け、筋活動を促す。
この時の筋活動は姿勢の制御に関与する活動なので、広背筋のようなGlobal Muscleではなく、脊柱起立筋などのPostural Muscleを期待している。
抗重力活動と従重力活動の評価
この辺りで、体幹のAlignmentを再評価すると下側になっている左体側がベッドから離れ、浮いている。肩・骨盤は接地しているが、胸郭・腹部とベッドは隙が空いている。
抗重力だけでなく、従重力方向にも動けないと考えられる。
そこで、胸郭の下に手を入れ胸郭の重さをわずかに支え(イメージ的には1、2割支える)、固有背筋を動かし、抗重力だけでなく、従重力方向にも動けるようした。
結果、左体側はベッドに接触できるようになった。
alignmentとしては左凸の体幹なので、肢位だけで見ると右への傾きが強くなったように思える。
しかし、体幹の傾きに対して抗重力・従重力の働きを促したので座位での姿勢は改善したはず。
まとめ
パーキンソン病患者の姿勢の傾きは体性感覚情報の取り込みが大きく関与している可能性があります。
感覚情報の入力とせず”取り込み”としたのは外部からの一方的な入力でなく、自発的に感覚の変化に”耳を傾ける”というactionが必要と考えられます。
つまり、姿勢保持に必要な筋群に対して十分に筋を伸張し、筋紡錘、腱紡錘からの求心性情報を適正にする必要を考えました。
以上一症例を通しての考察です。
なお、パーキンソン病のリハビリについては以下の記事にまとめてありますのでご覧ください。