更新日:2022.04.07

CPG (Central Pattern Generater)がリズミカルな歩行を作り出している

「歩行はCPGが重要って聞きますけど、何ですか?どうしたら動くんですか?」というセラピスト向けの記事です。

CPGとは何か、仕組みなどを説明し、この知識をリハビリの中でどう活用するかを説明します。

CPGとは何か?

Central Pattern Generatorといい、日本語では中枢性パターン発生器と言います。

決まったパターンを出力する運動パターンを生成する神経回路網です。

主に脊髄の頚膨大・腰膨大部にあり歩行、呼吸などのリズミカルな運動を作り出しています。これは、より上位の中枢や末梢からの感覚入力なく運動を生成できるという特徴があります。

このCPGが勝手に動き出すと困ります。あるいは動きが変えられないと困ります。ですので、上位中枢からの指令、末梢からの感覚情報により運動の開始と停止などができるようになっています。

重要なことは歩行などのリズミカルな動きは随意的に構成されておらず、開始の意図がCPGに伝わることで運動が開始あるいは停止すること、またCPGは上位中枢からの指令なく運動パターンの生成を継続することになります。

  • 上肢中枢からの指令で開始・停止する
  • 運動のパターンを生成し続ける

ことが特徴です。

CPGはどの様に歩行パターンを生成するか

CPGが歩行パターンを生成せ宇る概念図

歩行リズムの生成

前述の通り上位中枢からの下行性信号を受けたCPGは一側歩行リズムの生成をします。ここでは屈曲と伸展のリズムとします。当然伸展しているとき屈曲の筋は働きが少ない状態にありますので、イメージとしてはどちらかがオンのとき他方はオフとなります。

歩行パターンの形成

伸展のリズムがオンの時、歩行パターンつまり股関節伸展、膝伸展などの伸展のパターンを作ります。興味深いのは下肢の屈伸運動をつかさどる筋群の支配はL2以下多くの髄節に分布していることです。

上の模式図では同一髄節のイメージになっていますが、実際は上下の髄節間での連絡もあると考えられています。

これによって多髄節に及ぶ神経回路網の中で下肢の伸展(支持)が構成されます。

歩行パターンの出力

その後、運動ニューロンプール(灰白質Ⅸ層にある運動ニューロン群)に伝わった情報が運動ニューロンに伝達され筋活動となって表出されます。

影響を与える因子

上の回路網により歩行のパターンを作り出しているCPGですが、開始や終了そして調整はどの様になっているのでしょうか?

一つは上位中枢からの下行性信号となります。これは主に中脳歩行誘発野から網様体脊髄路となって下行する信号と考えられており、灰白質のⅧ層に終始しています。

また、末梢からの求心性入力もCPGの働きに影響を与える因子となります。足底の痛みや床との摩擦(滑る)などにより歩容を調整する際に影響していると考えられます。

左右の下肢をどう調整している?

一側下肢のなかでの屈伸について説明してきましたが、左右が同調して屈曲ー進展しているとヒトの歩行運動(左右交互屈伸)にはなりません。カエルのように(左右同時屈伸)なるかもしれません。

ヒトの左右交互のリズムの構成は一側下肢が伸展の時(立脚期)、反対側は屈曲(遊脚期)となっていないと困ります。

灰白質のⅧ層が大変興味深い仕組みを持っています。

Ⅷ層に下行した網様体脊髄路の85%は対側のⅧ層に介在ニューロンを介して到達するとの研究もあります。

これにより、左右下肢間の屈曲伸展リズムの調整も図られていると考えます。

脳卒中片麻痺者の歩行

CPGの構成を考えると脳卒中患者( 脳幹の障害でなければ )の多くは歩行ができる能力を持っているということになります。

ところが、脳卒中を経験された方の歩行はリズミカルに行かないことが多いのが事実です。

リズミカルに歩けない理由

CPGに影響を与える因子を2つ前述いたしました。上位中枢からの下行性信号と感覚フィードバックです。

感覚フィードバックと下行性信号

歩行中のフィードバックは小脳に伝達され、その運動に問題があれば修正されます。例えば、傾きの情報は前庭脊髄路へと伝達され傾いた側の下肢の伸展を強化します。つまり感覚のフィードバックにより(健常者が行っている様な)”通常歩行”の継続が困難と判断すると、CPGに対して歩行停止が伝わる可能性があります。

リハビリでどうしたらよいか?

総合的にみていくことが重要ですが、今回の記事の内容からいくつかのアイデアをまとめてみます。

下行性信号に着目して

頭の傾きや身体アライメントなどをただし、傾きや倒れる感覚を極力減らすことが重要です。時にBWSSやスリングのような器具が有効な時もあると思います。

ゆっくりと歩くことは一側の立脚時間が長くなり慣性が生じにくくなります。健常成人でもゆっくり歩くことはふらつくことがあります。そこで、2人がかりで歩行を解除してスピードやリズムを経験していただくことも有用なことがあります。

感覚フィードバックに目を向けて

感覚フィードバックに着目すると、下肢が支持している感覚のフィードバックが重要と言えます。特に立脚中の足底からの皮膚感覚や新筋群からのⅠa、Ⅰb情報などの固有需要感覚は脚の支持状態を認識するために重要です。

立脚側の伸筋の長さ(筋紡錘からのⅠa求心情報)と腱の張力(腱紡錘のⅠb求心情報)は立位で伸筋が不活性になっていないか確認してみると良いと思います。

装具はどうか?

足関節など固定している装具ではいくつかの問題があります。踵接地後に下腿が後方から押され、膝折れの感覚フィードバックになるなどです。これは、CPGにとっては歩行を停止すると判断する情報になりかねません。

ですが、立脚の際の全体の抗重力伸展の練習など、適用場面を選択することでリハビリを進めやすくなることは良く経験します。

まとめ

歩行を阻害するもの、促す因子で足りないものを考えると良いかと思います。

例えば外乱は歩行を妨げるネガティブな因子ですので、ない方が良いです。下肢の支持感覚は歩行に必要なポジティブな因子ですので、足りないと歩行は止まるでしょう。

以上、歩行時のCPGに注目してまとめてみました。CPGはあくまでも歩行の一側面を担っているにすぎず、CPGだけに注目した歩行練習というのでは機能的な歩行にならないことを最後に追記しておきます。

その他歩行全般のまとめは以下の記事が役に立つと思いますのでご覧ください。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している