脳卒中から回復する方法

「脳卒中になった方の移動手段として車いす操作の練習を行った。」これは、回復に向かったリハビリと言えるでしょうか?

回復と代償の違いわかりますか?

上の例はあくまでの機能を代償する手段を練習したということになり、本来の回復とは違ったことを行っていると考えられます。本来”歩く”というヒト固有の移動様式が成立しないため、車いすという移動の代替方法を提供しているわけです。

移動の手段としては問題ないと思いますが、患者・利用者の機能回復を担うリハビリ専門職としてこれで良いとは思えません。

「そうは言っても、トイレや食堂への移動ができないじゃないか!」という現実に解決しないとならない問題もあるので、詳細に説明していきます。

代替手段としてその時に必要な車いす・杖などの補助具を利用することは問題ないのですが、根本的に歩けない理由や代替手段・補助具を必要としている理由を忘れてはいけません。

回復とは何か?

ヒト、個人(患者個人そのもの)が本来持っていた機能、能力まで立ち返ることを回復とするならば、車いすや杖を使った移動は回復したとは言えません。

リハビリをしていると”代償”の方向に向かいそうになることがあります。たとえば

  • 杖で歩けて良かった。
  • 車いすでトイレが自立した。

など本来の回復とは違うのですが、機能を獲得できたことに喜びを覚えることがあります。

杖を使っている以上反対側の足の支持は少ないまま強化されず、車いすを使っている以上下肢の支持能力やバランス能力は向上しません。

回復と代償
機能獲得の回復と代償

手段として使っているのは良いですが、これにどっぷりつかってしまうのは取り返しのつかないことになります。

中枢神経の回復にも2通りある

中枢神経が損傷した状況から改善する方向性は2つあります。

機能代行 Vicariation

脳損傷を受けたエリアのになっていた機能を他の部位が請け負うことを言います(Stanley Finger, 2009)。つまり、1996年ランドルフ・J・ヌドーが脳の可塑性についてリスザルを用い研究で示した手の機能改善はこれに該当します(J.Nude, 1996)。

Nudeらは、リスザルの手の領域に人工的脳梗塞をつくり3か月のリハビリによって機能回復したのち運動野の機能局在を再検した。もともとの手の領域は損傷していたものの、他の支配領域であった部位が機能を代行し、手・指が動くようになったことを示しています。

回復 Recovery

脳梗塞の周辺領域で細胞死の起ころうとしているエリア(ペナンブラ)などが再び活動を起こすことによって改善することを回復といいます。

本来の回復はこちらだと思いますが、損傷した中枢神経の多くは回復しないことが知られています。そのため、脳梗塞の急性期治療でペナンブラ領域を救うための様々な治療が施されています。

機能回復にも2通りある

移動という機能を獲得しようとすると、歩行を目指しますが車いすの使用はどの位置づけになるでしょうか?

車いすの操作練習は中枢神経の足を動かす領域のVicariationやRecoverに貢献していると思えません。その理由は本来の活動と全く違うことを習得し行動に起こしているからです。

歩行のために必要な直立の保持や推進のための下肢体幹上肢の一連の動きなどが全くありません。また、中枢神経の作用として両側性の可都度、下肢の荷重感覚による平衡の保持など中枢神経に入力される感覚情報も全く異なっていることに気付きます。

前述の中枢神経の改善を用いた方法として、CIMT、一部ロボティクス、ボバースコンセプトなどがあります。旧来のfacilitation tecnique(促通手技)はこれに該当すると思います。

今日では様々なエビデンスが確立されてきており、リハビリテーションにおいても根拠に基づいた手法で行っていくことが望まれています。

脳卒中のリハビリのまとめは下の記事にあります。