Postural Orientation (姿勢オリエンテーション)について解説

随意運動に先行あるいは付随して姿勢制御が行われ、その構成要因として、姿勢の定位(postural orientation)と安定(postural stability)が必要とされています。

姿勢制御の研究

ベレンキーは以下の様に言っています。

立位姿勢から急速に前方へ片上肢を拳上した場合、主動作筋である三角筋前部の放電開始に先行して、同側の大腿二頭筋や脊柱起立筋の放電が開始する

Belen'kii, VY., Gurfinkel, VS., and Pal'tsev, YI. (1967) Elements of control of voluntary movements. Biophysics. 12: p.135-141.

主運動に先行して出現する活動を、意図した運動によって生じるであろう重心動揺を前もって予想して抑制しようとする、補償的な姿勢制御としての機能的意義を有することを示唆しました。
そしてこの活動を Anticipatory Postural Adjustment’s(APA’s)、先行随伴性姿勢調節 or 予測的姿勢調節機構と名付けたのです。

こののち、カンデルはPrinciples of NeuralScienceの文中で姿勢を姿勢平衡と姿勢定位と分類している。

姿勢平衡(posturalequilibrium),すなわち,身体のバランスを維持するには,身体に作用する外力に対して能動的に抵抗する必要がある。

姿勢定位(Posturalorientation)とは,身体の各部位の位置を他の部位や環境に適合させることである。

Eric R. Kandel et al.金澤一郎 宮下保司(訳)2014 カンデル神経科学 p.919

Orientationとは?

このOrientationという言葉はいささか理解の難しい言葉で、日本語訳は指向性、定位などとされています。

言葉ではなく、問題の本質をとらえるために説明を加えます。

新入社員のオリエンテーションは、新入社員に当該する組織の一員としての自覚や意識統一を図ったり業務の方向性を理解してもらうための機会です。また、里山で繰り広げられるオリエンテーリングは、地図上に表示された目印の地点をたどっていき、ゴールまでのタイムを競う競技スポーツです。

セラピストの視点から考えると、例えば歩行中は進行方向に向かってオリエンテーションがなされており、立ち上がりは垂直方向にオリエンテーションされています。また、ソファーにくつろいでいるときは座面や背もたれなどの支持面に対してオリエンテーションがなされていると考えられます。
つまり、Orientationは定位・指向性どちらの要素も併せ持つ言葉で決して静的な事象を指す言葉ではないと理解しておくべきです。

Postural Orientationとは

ある人が硬い床の上に立っているとき、足底にかかる力の反作用は床反力です。正味の床反力は圧力中心とよばれ両足の中心でやや背側に投射されています。

身体における質量中心は固定されているわけではなく、姿勢の定位(Postural Orientation)によってリアルタイムに変動しています。

直立から前方へお辞儀をする(股関節を屈曲したとする)と、圧力中心は支持基底面の前方へ移動します。この時の不安定さは、圧中心が支持基底面の境界に向かって移動する速度と境界までの距離によって決まります。

そのため、お辞儀をした際立位を保持するための定位として股関節の屈曲のみならず、足関節を底屈(お尻を突き出すように)して圧中心が支持基底面から出ないようにコントロールしているのです。

姿勢の定位とは重力、支持面、視覚環境、内部表象によって動的に身体アライメントと筋緊張をコントロールすることといえます。

Postural-Orientation
支持基底面、圧中心と姿勢定位のイメージ図

姿勢の定位は重力の向き(鉛直線)、視覚で認知される垂直方向、支持面に対して配列されるとされます。動的な場面、例えば歩行中では、前方への推進移動に伴う慣性も考慮に入れる必要があります。

まとめ

リハビリの場面においてPostural Orientationの問題に取り組むとすれば、以下の要素を考える必要があります。

  • 支持面からの床反力を受け入れるため、筋の緊張や支持面の感覚情報を受け取れるようにする
  • 頭部を重力に対して鉛直を維持し視覚、前庭核からの情報を受け入れられる様にする

以上のことが、姿勢が安定して動くために必要な要素と考えています。

姿勢制御に必要な感覚情報の統合プロセス」については以下の記事が参考になるかと思います。