更新日:2022.03.16

ボバースコンセプト(Bobath concept)についてボバースインストラクターが解説

ボバースコンセプト(ボバース概念)とは何か?

ボバースコンセプト(概念)についてボバースインストラクターである私が解説いたします。私(塚田直樹)は、世界で250名ほどいるボバースインストラクターの一人です。毎年知識、技術をアップデートしています。

定義については下に書いておきますが、ボバースコンセプトを簡単に言うと、

ボバースコンセプトとは、ヒトが動くために必要な姿勢制御(動作中バランスの維持など)や運動・行為を今日の最新の神経科学や機械工学の知識・技術を用いてリハビリに取り組む

というリハビリテーションの概念です。

ボバース夫妻の伝記 タイトルはThe Bobaths
ボバース夫妻の伝記「The Bobaths」

多くの方から質問を受けるのでこの記事にまとめました。定義や、歴史的な話を交えてわかりやすく解説しています。

ボバース法?ボバースアプローチ?と違うのか?

ボバースコンセプトは、手法や具体的アプローチを指す言葉ではありません。ボバースコンセプトを学んだ人たちは、このことを理解していますので、ボバース法、ボバースアプローチという表現を今日では使っていません。

方法がないがゆえに理解しにくい、あるいは個人のスキルよってボバースセラピストでも同じことをするわけではないという特徴があります。

先日「コンセプトとテクニック」という記事にしましたが、概念ですので”手法”、”手段”ではありません。

この概念に基づいて機能回復に必要な要素をセラピーします。そこにのために様々な手法を用います。

徒手的に体を動かすことが最も多いですが、必要に応じて装具、杖などの補助具も検討しますし、テーピングなども用います。

また、トレッドミル(ランニングマシン)を用いてリズミカルな歩行の練習も行います。

手法、技法、補装具などは対象者にとって今考えうる最善の方法を選びます。

ですので、今日のリハビリ治療として取り組まれている、CI療法、ロボティクス、ボツリヌス療法(ボトックス)などの利用ももちろん考え、学んでいます。

ボバースコンセプトの実践イメージ

実際のセラピーを行うためには以下の3点が重要なポイントとかんがえています。

  • 知識 : 神経の可塑性や学習などの神経科学、整体力学など
  • 技術 : セラピストとして必須の動作を促通するテクニック
  • 臨床実践 : 実践の計画と試行を熟考する過程と経験

これらによってどのようなセラピーを実施するかが決定されています。

ボバースインストラクター(指導者)として以下の点はユニークな点だと思っていることがあります。

対象者の個別性に応じて上記の手法を様々変えて取り組むことが必要であり、画一的なプログラムのリハビリは絶対に行いません。

歩くことを目標にする方はとても多いですが、一人として同じヒトはいませんのでその方に合わせた、リハビリ計画を立てています。

今日の医療は個別性に応じてオーダーメイド治療などとと言ったりしていますが、ボバースコンセプトでは何十年も前から当たり前のように行ってきたことなのです。

それがゆえに、セラピストの技量によって結果が大きく左右されるという面があります。

これが、ボバースコンセプトがエビデンス(根拠)を出しにくい原因かと思います。

ボバース概念の定義

IBITA(International Bobath Instructors Training Association)の定義では、ボバース概念は以下の通りです。

IBITAのLogoマーク
IBITAのロゴマーク

The Bobath concept is the most widely used neuro-rehabilitation approach worldwide, and considers the impact of the neurological condition on the whole person within their individual context. The clinical application of the Bobath concept focuses on movement analysis with respect to selective movement, postural control and the role of sensory information to develop a movement diagnosis guiding treatment and evaluation.

ボバースの概念は、世界で最も広く使用されている神経リハビリテーションアプローチであり、個々の環境の全ての人に対する神経学的状態の影響を考慮しています。 Bobathコンセプトの臨床応用は、選択的運動、姿勢制御、感覚情報の役割に関する運動分析に焦点を当て、治療と評価を導く運動診断を発展させています。

IBITA Web siteより引用

なお、2010年代から現在にかけてボバースコンセプトの定義の見直しがなされており、2020年秋の時点では以下の様になっています。

The Bobath Concept is an inclusive, individualized therapeutic approach to optimize movement recovery and potential for persons with neurological pathophysiology informed by contemporary movement and neuro-sciences.
ボバースコンセプトとは、 包括的で、個別性を重要視した治療的なアプローチであり、現在の運動及び神経科学と照らし合わせて神経病理学上の損傷のある方々に対して、運動回復や潜在性を最大限に活用するものである。

The concept provides a framework for the analysis of functional movement based on the understanding that neurological pathology affects the whole person.
このコンセプトはその人のすべてに影響を与える神経病理学的な影響を理解つつ、機能的な運動分析の枠組みを提供する。

Intervention focuses on the recovery of typical movement, minimizing atypical and compensatory movement, whilst recognizing that movement problems are influenced by the person’s lived experiences pre and post the neurological lesion.
介入は、本来の運動回復に着目しながら病的な代償的な運動を最小限にし、その運動障害は損傷前後の生活体験に影響されることを理解する必要がある。

There is an emphasis on a 24-hour multidisciplinary approach to enhance activity and participation.
活動や参加を促す24時間の多職種間の連携が重要である。

Within the Bobath concept, functional movement analysis considers the influence of sensory information on the relative interaction of postural control, selective movement and cognitive/perceptual processes.
ボバースコンセプトでは、機能的な運動分析は姿勢制御、選択的運動、認知/知覚過程の相互作用による感覚情報の影響を考慮する。

Likewise, trunk and head control is viewed as equally important as upper and lower limb control.  
体幹と頭部の制御は上肢と下肢の制御と同じように重要であると考えられる。

The quality of movement performance is considered with respect to the integration of postural control and selective movement, the active alignment of all body segments, and the ability to receive, integrate and respond to sensory information.
運動遂行の質は、姿勢制御と選択運動の統合、全身の能動的な各部のアライメント、感覚情報を受容し、統合し反応する能力を考慮しながら評価される。

Facilitation is a Bobath clinical skill, and is an active process that seeks to influence sensory information through therapeutic handling, environmental and verbal cues.
促通はボバースの臨床スキルであり、治療的なハンドリング、環境そして口頭指示による手がかりを用いて感覚情報に影響与えるものを探し求める能動的な過程である。

The client’s response to facilitation informs the clinical reasoning process.
ファシリテーションでのケースの反応は臨床推論の過程にも影響を与える。

全ての文章を3回のスタディに分割して250名程度のIBITA会員(インストラクター)できめてきました。そのため、それぞれのインストラクターが重要と思う点が多く上記のような長い文章になったと思います。

ボバースは古い?

ボバースコンセプトの臨床実践は今日の最新の知見に基づき提供されています。最新の神経科学に基づいていると思っています。

歴史は1940年代からと古いのですが、ここでにまとめたのは歴史の話ではなく、今日の科学、医学水準と比較して古いのかという話です。

1980年に開催されたⅡSTEP会議(神経疾患のリハビリテーションを議論する国際会議)では、ボバース、PNFなどが”反射理論を背景としたテクニックでその当時の学術的背景に追い付いていない”と批判を受けました。

その後、ⅢSTEP会議ではボバースグループは”臨床に基づいた実践に良く取り組んでいる”と評価を受けましたが、1980年代の批判だけが今日も残っており、古い、古いと言われています。

1980年当時、ボバースが反射理論に基づいたリハビリを展開していたかといえばそうではないのですが、ⅡSTEP会議に参加していない私に反論の余地はありませんが、1980年代にはシステム理論にともづいた治療を取り組んでいたようです。

そしてボバースコンセプトは様々な誤解を持たれ、今日に至っています。

手順の決まった手法ではないということもその一つです。

かつては、ボバースの教えを受けたセラピストが、”ボバース体操”というものを作り、その体操が効果がないということで、ボバースは効かないといわれた時代もあったようです。

中にはボバースの講習会で使用していたグッズをボバース○○と名付けて売っていた輩もいたとのことです。

今日でも商品名でボバース○○という物は残っています。

まとめ

ボバースコンセプトは1940年代より発展し続けていて、ヨーロッパを中心に最も広く使われている神経リハビリテーションのアプローチです。

ボバースの指導者でありながらも一言で答えられないジレンマがありますが、できるだけわかりやすくまとめてみました。

質問やご意見がありましたらお問い合わフォームせよりお願いいたします。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している