更新日:2022.03.16

Graviceptor=重力受容器とは

重力受容器とは何だろうということをまとめてみました。

Rock Balancing (バランスよく積まれた石)

以前姿勢制御に必要な多重感覚入力という記事にもMassionの図中にでてきたGraviceptorです。

何となく、”重力のかかり方を認識する感覚”というとらえ方でした。受容器もはっきりとわからず神経終末であるということくらいの認識でした。

2016年ころ調べてみた記憶がありますが、検索ヒット数も少なかったので今回改めてもまとめておきます。

直立時に重力の作用を受けて身体が動揺すると,筋が伸張,あるいは短縮し,負荷や筋長や伸展速度に関する固有感覚シグナルを生成する。関節受容器は関節圧を検出し,足底の皮膚受容器は圧力中心の動きや身体の動揺に伴う床反力角度の変化に反応する。腎臓の近傍の圧受容器は重力への感受性が高く,直立姿勢か傾斜姿勢かを神経系が検出するのに役立っている。こうしたシグナルのすべてが,身体の各部位と他の身体部位や支持面との位置関係の神経マッピングに貢献していて,神経系による質量中心の動きの計算に寄与している可能性がある。

Eric Kandel(著) 2014, カンデル神経科学 PartⅥ 運動 p.926

カンデル神経科学の姿勢制御に必要な多重感覚入力の情報源として、腎臓の近傍の圧受容器は重力への感受性が高いという文章があり、この”腎臓近傍の圧受容器”が重力受容器のことと思われますが詳細が書かれていないので調べてみました。

Graviceptorとは

Graviceptors refer to the sensory receptors and sensory systems that contribute to providing a neural representation of the direction of gravity with respect to an organism and of motion of the organism with respect to the gravity vector. The vestibular system is a major contributor to graviception.

重力受容器は、生物に関する重力の方向と重力ベクトルに関する生物の動きの神経学的表現を提供することに寄与する感覚受容器と感覚システムを指します。前庭系は、重力受容感覚の主な原因です。(訳)

(2009) Graviceptors. In: Binder M.D., Hirokawa N., Windhorst U. (eds) Encyclopedia of Neuroscience. Springer, Berlin, Heidelberg. https://doi.org/10.1007/978-3-540-29678-2_2083

重力受容器が重力ベクトルに関する情報を感知するのであれば、前庭での平衡の感知と統合することで、体と頭の垂直が認識できると考えられます。前庭は頭位の傾きや加速度を検出しているので、体にかかる重力のかかり方は重力受容器が検出できると合理的です。

Motile microorganisms such as flagellates and ciliates use the gravity vector of the Earth to adjust their position in the water column. Oriented movement by gravity is called gravitaxis and can be positive (downward swimming) or negative (upward swimming). In addition, some ciliates modify their velocity according to the swimming direction (gravikinesis). Earth-bound research and experimentation under simulated and real microgravity have revealed that a heavy mass such as a statolith or the whole cell content presses onto a gravireceptor which perceives the signal. In some cases mechanosensitive ion channels have been identified as gravireceptors.

鞭毛虫や繊毛虫などの運動性微生物は、地球の重力ベクトルを使用して、水柱内の位置を調整します。重力による方向付けられた動きは、重力走性と呼ばれ、正(下向きの水泳)または負(上向きの水泳)になります。さらに、一部の繊毛虫は、遊泳方向に応じて速度を変更します(重力運動)。シミュレートされた実際の微小重力下での地球にバインドされた研究と実験により、不定石などの重い塊または細胞全体の内容物が、信号を感知する重力受容体に押し付けられることが明らかになりました。場合によっては、機械受容性イオンチャネルが重力受容器として識別されている。(訳)

Donat-Peter Häder, 2018, Ruth HemmersbachGravitaxis in Flagellates and Ciliates

繊毛虫などが、水中を上下に動く重力のベクトルによって方向づけられているようです。

とはいえ、繊毛虫は目(視覚)や体性感覚の一部である深部知覚などはなさそうですので、我々ヒトが重力を感知する仕組みと同様に扱うわけにはいきません。

実際Graviceptorの文献を過去5年分調べましたが多くが、菌類、藻、キノコ類、繊虫類などの微小生物のものが大半で(時に魚類など)、ひょっとすると地球上に生を受けた動植物が持つものかもしれません。

また、地球上に生命が誕生して以来すべての生物は重力の影響を受け、ときにそれを感知するシステムを身に着けて重力環境下での生存に適応してきたようです。1960年代にはじめて人類が地球の重力から解き放たれた宇宙空間に進出し重力受容器の研究も発展したようです。

body posture is also directly measured by recently discovered graviceptors in the human trunk. 

体の姿勢は、人間の体幹で最近発見された重力受容器によっても直接測定されることが示されています。固有受容体は位置の認識を仲介するが、姿勢の認識は仲介しない、または間接的にのみ仲介するように見える。(訳)

H Mittelstaedt, 4 March 1998, Pages 473-478, Origin and processing of postural information

まとめ

この記事を投稿した2020年9月8日現状、Graviceptorの受容器や求心路などはっきりとした論文にはたどり着けていない。

引き続き、論文を検索してみたいと考えます。これに関する情報をお持ちの方は以下のフォームより是非お知らせください。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している