更新日:2022.04.07

抗重力伸展活動についてのまとめ

地球上にいる限り重力の影響を受けて活動をすることになります。この記事では抗重力活動について、簡単かつ臨床的な側面も含めて解説しています。

時間のない方は、以下の動画でも同様の解説をしていますのでご覧ください。

ヒトの特徴

ヒトの生物学的特徴として以下の点が挙げられます。

  • 二足直立での移動様式になった
  • 頭頚部が地面から離れた
  • 両手が地面から離れ自由になった

その反面、重心が高くなり不安定になり、平衡の維持が難しくなったという側面もあります。

などメリットばかりではなく、複雑なバランスを克服する必要が生じたといえます。

複雑なバランスや姿勢の保持を獲得してヒトは活動を行っています。

この背景には重力に抗して姿勢を維持する筋・骨格システムの働きが重要です。

また、筋・骨格の位置関係を維持・調整するために神経システムは制御のために各感覚器からの情報収集を行っています。

つまり抗重力的な姿勢の制御は感覚、統合、筋活動などが円滑に機能した結果もいえます。

抗重力活動とは、どのような活動なのか?

重力に対抗する活動を意味するのですが、私たちは重力を目で見たり手で触って確認することができません。

そのためどの活動が抗重力活動なのかを判別するのにはコツがいります。2本足で立っていれば抗重力活動をしているとは言えないのです。例えば反張膝など骨性支持の場合が良い例です。

ヒトが立っているときには重力によって体が地球の真ん中に向かって押し付ける働きが生じています。

この荷重に対抗する反作用として床反力があります。この床反力に身体各部を合わせておくことで楽に立つことを可能にしています。

足ー下腿ー大腿ー骨盤ー脊柱ー(胸郭)ー頭

上の配列が、床反力のベクトルに沿っている方が楽に立っていられます。

この配列にする、あるいは維持するために必要な筋活動が抗重力伸展活動(antigravity extension activity)というわけです。

抗重力姿勢から外れそうになった時に、筋肉が引き延ばされたり、関節内の圧が変化したり固有受容感覚情報に変化が起こります。また、支持している足底にかかる圧も変化し皮膚の感覚情報も変化します。この情報に基づいて姿勢を保持するための筋活動を調整しています。

また、迷路は頭部の垂直を検出し、重力受容器は内臓が安定している感じを捉えています。

これらの感覚情報を統合して、ヒトは立つべき歩行(抗重力姿勢)を認識していると考えられます。

抗重力活動は筋活動のこと?

抗重力筋を調べてみると、以下の筋が挙げられています。

立位における抗重力筋群
  • 下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)
  • 後脛骨筋
  • 前脛骨筋
  • ハムストリングス
    (大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
  • 大腿四頭筋
  • 大殿筋
  • 腸腰筋
  • 腹筋群
  • 脊柱起立筋(腸肋筋・最長筋・棘筋)
  • 広背筋
  • 僧帽筋
  • 胸鎖乳突筋

では、これらの筋はどの様に働くのでしょうか?

同時収縮ですが、必要以上に強く収縮していることはありあません。

ヒトは静止立位でも 呼吸運動や心臓の鼓動など身体内部から起こる動揺(内乱)などにより動いています。先ほどの抗重力方向に身体を合わせるように制御されているため、前後、左右、上下で筋収縮を調整しながら姿勢が安定するような活動が作られているからです。

生理学的には同時収縮になっているといえますが、神経学的に考えると重心動揺に合わせて収縮が変化しているということになります。

もう一つ興味深い点は、この活動は意識的に生成されていないということです。健常成人が意識をせずに立位を保持していられるのはこのためです。

臨床的意義

抗重力活動は、感覚器を通して認識した重力線(Gravity Line)に身体を分節構造を合わせるように起こる筋活動の事と捉えられます。

抗重力筋は上の図では前後を示していますが、前後協調して立位を保っています。

強い収縮による姿勢の保持は動き出す場合や姿勢を変換するのに不都合ですので、必要最低限の筋収縮(強すぎない筋収縮)で立っている方が良いと考えます。

立位保持に強い力を入れているのは効率が良いとは言えません。筋活動が必要なことは間違いありませんが、強すぎ、弱すぎは安定性と運動性に問題を起こします。

脳卒中後の方は腹部筋群の低緊張を示すことがありますが、腰背面筋は運動性を欠くことが多いと思います。股関節屈筋は可動性を欠き、伸筋である大殿筋、ハムストリングス起始部は安定性が乏しいという状況はよく目にすると思います。

リハビリで注意しなければならないのはこの活動は感覚システムから姿勢の乱れや偏移を検知して自律的に維持・修正されている点です。随意的に筋活動を起こすことでは効率の良い抗重力姿勢になっていると言えない点です。

まとめ

ヒトの特徴である二足直立歩行において必要な抗重力伸展活動についてまとめました。

機能的な側面を考えると、これらの筋活動により姿勢を保ちつつ課題のための動作・運動を行っていることになります。

余談ですが、背臥位から起き上がるときに抗重力活動が要求されますが抗重力屈曲活動(antigravity flexion activity)と言います。

姿勢制御と運動制御については下の記事に詳しくまとめています。

また、歩行については以下にまとめがありますのでごらんください。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している