更新日:2022.03.16

歩行のメカニズム 進化・運動学・神経学的視点からのまとめ

リハビリにおいて歩行を改善しようとするとどこを見て、どこから改善したらよいか戸惑うことがありますよね?

この記事を読むと歩行がどのように成り立っているのかわかり、着眼点や介入ポイントなどがわかるようになります。

進化の視点から

ヒトが二足直立歩行をするようになったことで得られたことは以下の通りです。

  • 両手が自由になった → 物の操作性・巧緻性が発達した
  • 頭部が高い位置に移動した → 遠くを見渡せる視覚、喉が曲がり音声をつかうようになった

など、があります。二足直立で得られたことがありヒトの文化的生活の背景となっています。

渋谷スクランブル交差点

患者さんの歩行でよくみられる姿勢は下を向いて、杖をついています。これでは手が自由にならず、遠くを見渡すことができません。

解剖学的メカニズム

二足直立になったことで、体幹が垂直なり腹部内臓器の安定のために腹部筋群の働きが重要となった。

この働きは内臓の安定だけでなく、上半身の安定にも重要な役割を担っている。

体幹を垂直に起こすため体幹背面筋である伸筋群が発達した。脊柱起立筋や広背筋など。

また荷重を両足底だけで受けるため衝撃を吸収する構造、足部アーチを持っている。

運動学的メカニズム

前述の足部アーチはMid-Stanceで足底腱膜を伸張しTerminal Stanceで下腿三頭筋を伸張する。その伸張からの復元力はPre-Swingでの蹴りだしにおいて、前足部が床面をける際に役立っている。

Initial Contactの踵からの衝撃は股関節伸展筋群を活性化し、体幹の伸展を作り出す。

両脚支持では前脚がInitial Contact、後脚がPre-Swingになっており両足底は床面から離れている。

これによりDoubule Stance Phaseでの重心の下降を防いでいる。これにより歩行中の頭部の上下動を最小にしている。

神経学的メカニズム

移動のための基本的運動パターンの出力は脊髄機構であるCPGにより発生している。

CPGは皮質脊髄路や網様体脊髄路などからの下行性指令はもちろん、末梢受容器からの感覚入力により運動のパターンを調整している。

体幹の安定性のため脳幹網様体脊髄系が平衡の維持(体幹のぶれを制御)などに寄与している。

前庭系は重心の変移下側の下肢の伸展を作る。

小脳は下肢からのフィードバックをうけ歩行リズムの就職や修正を行う。

大脳皮質(主に前頭葉)は歩行の開始と終了、応用的な歩行に関与している。

介入のポイント

歩行の開始と終了は意識的に計画され、運動を作り出すきっかけとなっているが、開始された歩行運動は通常無意識的に行われています。開始された歩行は環境からのフィードバック(末梢受容器からの感覚入力)により装飾・修正されています。

その中で、より効率的な歩行を継続するためにCOMが高い位置に保たれ左右へのブレが少ない状態にいることが重要です。また、機能的な歩行をするために体幹の安定が保障され上肢が自由になっていること、頭頚部(視線)が固定的になっていないことも併せて確認しておいた方がよさそうです。

以下のポイントが重要になると思います。

  • 正しいアライメントで立てている。ステップポジション、片脚なども
  • COMが高い位置にある。下肢・体幹が伸展しているかどうか
  • 末梢受容器からの感覚入力(特に体性感覚)に対応できる
  • バランスのために手・目・首などが固定的になっていない
  • などなど

ということで一例を出して考えてみます。

右片麻痺者の歩行(右下肢の動きを歩行周期に割り当てた)

上の図は片麻痺者の歩行を右下肢の歩行周期に着目しランチョ・ロス・アミーゴの歩行周期に割り当てたものです。全体に非麻痺側へ体が傾き、前屈姿勢となっています。また、右上肢はSwingが見られず常に屈曲位となっています。

Initial Contactは足部外側から接地するためLoading Responseの周期に該当する相と一体化しています。また、踵での接地とその衝撃吸収がなく、股関節伸展、体幹伸展へのKinetic Chaneはみられません。

Mid-Stanceは股関節の伸展が不十分であり、COMの最高点に到達していない様に見えます。

Terminal Stanceでは股関節の伸展が起こっていないため、股関節屈筋が十分に伸張されずSwingへの準備がされていない。

Pre-Swingでは左下肢のStanceに対応するはずですが、左股関節、体幹の伸展(左下肢のStance)ができていないことがわかります。

Swing Phaseは骨盤右側の挙上と体幹の左回旋により右股関節が屈曲のまま前方へ運んでいます。

まとめると、体幹・股関節の伸展が両側とも出来ていないこと、左側の立脚においても十分に片脚での支持ができていないことなど多くのことが目につきます。

fef8e6まずは全体的なことを捉え、そのうえで詳細を見ていくと良いと思います。また、その関連性について考えてみると良いと思います。

上の図の方のリハビリを考えると、両下肢と体幹の伸展を立位で行い、COMが高い位置で保てるようなことを介入のとっかかりとして進めると思います。足部の動きや、Swingの際の膝のReleaseなど細かなところは後回しにします。これはあくまでも私個人の意見であり、皆さまの視点、経験などにより介入するポイントは変わります。これが正解ということではありません。

まとめ

様々な点から歩行のメカニズムを解明する研究などがなされています。

歩行改善のために働きかけるセラピストは歩行の論理的背景を知り、分析の視点に加えていくことが技術につながると思います。

二足直立歩行への進化(発達)過程や身体構造の特徴などから歩行に必要なメカニズムについて解説いたしました。

患者様の歩行分析、治療介入の参考になったら幸いです。

なお、この情報はかなり割愛して書いていますので、不足している事項はご容赦ください。

歩行のまとめ記事は以下にあります。

この記事を書いた人

塚田 直樹
Rehabilitation Plus 代表 理学療法士として20年以上の経験 専門理学療法士・認定理学療法士・ボバースインストラクターとして年間50以上の研修会に登壇している